なぜ持ち込み料を払わなければならないのか

バーのマナー

 持ち込みというからには、店のものではなく、お客様の側で用意したものを持ち込むわけです。お店が仕入れたものを提供するわけではない。お客様が自ら購入するなどして手に入れたものを消費している。それなのになぜ店に余分にお金を払わなければならないのか、理解できない人もいるのでしょう。

 ※バーでの持ち込みそのものについて書いた記事はこちら。

 持ち込み料とは、何に対して払うお金なのか。
 店から何も提供していないのに、どこから湧いてきた請求なのか。
 それがわからない人は「大人としてちょっとヤバい」認定をされてしまうかもしれません。しかも、それを誰も指摘してくれないままに・・・。それは悲しいので遅筆ながらこの記事を書いている次第です。
 ※持ち込みについては持ち込むものの種類や持ち込み方などの問題もあるのですが、今回は持ち込み料、お金の問題のみを扱います。

結論から言うと、持ち込み料とはつまり、お店の利益に対する保証金のようなものです。

 客側で何かを持ち込むということは、お店のものが提供される機会が減る、または失うということですが、ここで大切なのは、お店から提供されるほぼ全ての品物には利益分が加算されているということです。当たり前と思うかもしれませんが、その利益の中から、人件費であったり光熱費であったり、内装・設備の管理費など「家」ではなく「店」であるための費用が出ています。もしそうでなければ、極端な話その店のトイレ掃除はお客様がすることになるかもしれないということです。

 そこで、2名で来店したお客さんが通常サイズ(750ml)のワインを1本持ち込んだとします。退店するまでにその1本で過ごしたとしたら、お店の飲み物の売上から得られる利益は0円。お酒や飲料を提供しているお店で有料の飲み物を注文しないのはTPOによっては(それこそ持ち込み料を請求するようなお店では)なかなか恥ずかしい行為、店としては歓迎できないことと言えるのですが、それと同じ状態になります。もちろん追加でお店のボトルを頼んだとしても、やはりお客様の飲んだ本数から持ち込んだ分=一本分の利益が失われるので同様です。機会損失の考え方ですね。
 
  持ち込むのは客側の都合なので、持ち込みによって生じる機会損失分の利益をある程度保証する必要があるという考え方が、持ち込み料請求のベースにあります。

 バーにおいてたまに見られる光景として、持ち込んだワイン等を他のお客様にもお裾分けするということがあります。この際にも、ワインをお裾分けする→お裾分けされたお客様の注文が減る→そのお客様から得られる筈の利益が減る との考え方から、持ち込んだお客様にはお裾分けされたお客様の分の持ち込み料を負担していただくことがあります。

 持ち込み料はお店によって様々ですが、私が以前働いていたお店では持ち込みの際に提供したグラスの数×500円でした。

 ということで持ち込み料の請求とは「利益の確保=お店がお店としてあるためのエネルギーの確保」とご理解いただければと思います。
 またそういった事情から(少し厳しい言い方になりますが)持ち込み料について理解できないという方は、そのお店やそこで働く人がどうなっても構わないと思っているのと解釈してしまいますし、お店と良好な関係を築くということにもまるで関心がなく、飲食に限らず経営や商売全般についても無頓着な大人と思われてしまうかと思います。冒頭で「大人としてちょっとヤバい」認定をされてしまうと書いたのはこのためです。

 ただし、上記の説明を踏まえて持ち込み料を払わなくてよいと思われるパターンがひとつあります。あくまで「利益の確保」「機会損失の回避」が目的なので既に一定の利益を確保している時には持ち込み料は発生しないと考えられます。
 
 それは「飲み放題」の場合です。

 もちろん飲み放題を行なっているお店に限られるのですが、飲み放題は基本的に一定時間以内の一定のメニュー内から、そして店側の想定の範囲内の杯数であれば利益が出るように価格が設定されています。杯数が出れば出るほど利益は圧迫されますが、それでもこの原価のドリンクなら、そしてこの制限時間内なら余程飲まれない限り赤字にはならないだろうというくらいです。 従って、持ち込みをすることにより飲み放題で出る杯数が本来より減ると仮定するのであれば、それはかえって店側の利益が増えることになるのです。
 もし飲み放題の時にも持ち込み料を請求されることがあるなら、それはお店側に問題があるように思います。
  ※ただしこれにも例外があり、例えば飲み放題での利益はあまりとっていなくて、追加のボトルなどによって利益をあげようとしているお店には当てはまらないかもしれません。いずれにしても「お店の仕組み」を慮る姿勢は大事かと思います。

 持ち込み料について、いかがでしたでしょうか。お金の話なのでいささかデリケートな問題であるものの、飲食店の常連さんや「お店の使い方が上手い」と評される方々はこういったことを理解している方がほとんどと思われます。仮に持ち込み料を請求されないお店だとしても、店側の機会損失を理解して支払うべきと考えるお客様もいます。そしてそういった方々に対しては、お店側からの扱いが平等を装いつつもどうしても変わってきてしまうこともあるかと思います。「良いお客様が多いお店」は自然と繁盛します(※必然的に、良いお客様に支持していただけるお店であるという意味でもあります)。お店と良好な関係を築ける人が増えれば、素敵なお店が増え、素敵な街になるのではないかと思います。

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