バーのすごい常連様

バーのマナー

さて、いつぶりかわからないくらいの新作「バーのすごい常連様」について。

バーという空間は他の飲食店にくらべていわゆる「常連様」の比率がとても高くなりがちであるというのは実際にバーに通っている方はもちろんのこと、そうでない方もなんとなく想像がつくくらいに浸透していることだと思います。

 しかし、一口に「常連様」といっても単によく来店する方というだけの意味ではありません。

タイトルにあげた「すごい常連様」とはどのようなお客様なのか。例によって私の主観になりますが解説してまいります。

その気になればスタッフになれる?店について熟知

 すごい常連様は店について熟知しています。熟知といってもいつオープンしただとか家賃がいくらだとか、そういった知識面ではなく(それすら知っている方もいますが)、お店の傾向といいますか、これはアリ、それはナシのような明文化されていない不文律、一部で「暗黙のルール」などとも表現されるようなことについて熟知しているということです。店主やスタッフの癖を掴んでいるといってもいいでしょう。そして必ずしもお酒に詳しいということもありません。自分が頼むものや、自分ではあまり頼まないけれどもそのお店でよく出るメニューを把握しているくらいでしょうか。そして次からの項目全てに言えることですが、そのお店を大事にしているため、下手な従業員を上回る謎の経営者目線を備えていることも特徴です。

注文のタイミングとテンポ

 注文のタイミング?注文なんて自分の好きなタイミングですればいいんじゃないの?という方もいらっしゃるかもしれません。確かにそれはおっしゃる通りです。しかしすごい常連様は注文のタイミングも抜群です。ファーストオーダーの場合は頼むものが決まっていることも多いですが、バーテンダーと目があった時や特に支障がないようなら着席しておしぼりを受け取った直後にオーダーしたりします。

 「えーっと・・・」と迷うことが極端に少ないです。2杯目以降のオーダーも飲みながらなんとなくでも決めていることが多いので、滅多に迷いません。迷わないというか、オーダーを聞かれてから「えーっと、なんにしよ」と戸惑うことがありません。内心で決めるまでは迷うかもしれませんが、バーテンダーとやりとりが始まってから時間をとることがほとんどありません。バーテンダーとしては一度伺ってしまったらお客様側から「ちょっと考えます」などと言われない限り、その場を離れられなくなってしまいます。もちろん、バーテンダー側からおすすめをしたり、色々とヒアリングをしたりということはあるのですが、迷っている場合にはそれらにも明確な反応が返ってくることは少なく、「うーん…」となってしまいます。何度でもいいますが、それ自体が悪いわけではありません。大いに迷ってください。単に今回のテーマの「すごい常連様」はそれがほとんど無い、というお話です。

 また、他にタイミングとしてはバーテンダーの手があいた瞬間や、他のお客様がオーダーしたものと同じか似たようなドリンク、はたまた手のかからないウイスキーのストレート、などを便乗してささっと注文することがあります。

注文の種類(スピードや単価)

大前提として、何を注文するのかはお客様の自由です。がしかし、「すごい常連様」はその時のお店の混雑状況などによりオーダーを考えます。以前こんなツイートがありました。

と思ったら現在は消えているようなので要約しますと、他のお客様がシャンパンを使用するカクテルを注文し、それにより新たにシャンパンが抜栓されることになったため、それを見ていた方がせっかくだからと自分もシャンパンを使うカクテルを頼むという内容でした。なぜそのようなことをしたのでしょうか。

 それは、シャンパンは一度開けてしまうとできればその日のうち、遅くとも翌日までには消費しないと炭酸が弱くなったりしてロスになってしまうことがあるからです。そうしたお店側の事情を鑑み、せっかく開いたのだからとシャンパンを使用するカクテルを頼んだというわけです。お店によってはそれを踏まえてカクテル用にハーフボトルやクォーターボトルを用意しているところもありますが、全てのお店がそうというわけではありません。むしろ、そのロスの問題を知っているからこそ、「すごい常連様」はなかなかシャンパンをボトル以外では頼みにくいと思っていたりします。だからこそ、他の人が開けてくれたのなら、それに乗っかって普段頼みづらいシャンパンのカクテルを頼んでみよう、というパターンもあります。

 すごい常連様はオーダーの単価についても考えています。普段は自分の好きな、いつも飲むメニューであったり、その日の興味や気分に応じたメニューを注文しますが、例えば静かな…という言い方をするバーテンダーは多いですが、要するに暇な(※そんな時にせっかくきてくれているお客様を目の前にして暇というのは失礼である)曜日や時間帯であったりすると、静かに集中して飲めるからと高単価のウイスキーなどをあえて注文することがあります。もちろん静かに飲めるからというだけでなく、お店が静かであるという状況を慮ってのことです。

お会計のタイミング

 すごい常連様はお会計のタイミングもバッチリです。バーという空間や、そのお店に慣れているからこそできる芸当です。バーを楽しんでいる一方で、どのタイミングで帰るべきかというのを頭の片隅に置いています。言い換えると、お店の流れをそれとなくみています。お店が暇そうなら次のお客様がきてファーストオーダーが落ち着いたらにしようか、とか忙しくなりそうな時間帯になる前に帰ろうか、とか。満席に近い状態なら、もし次にお客様が来店して入れないようなら自分が席をあけようか、とか。ずっと意識して狙っているわけではありませんが、頭の片隅においています。逆に、そういうタイミングを見計らわないといつまでたっても居てしまう(苦笑)、という方もいます。

声をかけるタイミング

これはオーダー、お会計に共通して言えることなのですが、すごいお客さまは「変なタイミング」で声をかけることがありません。やはり何回でもいいますが、基本はどんなタイミングでも咎められることはないのですが、他に対応できるスタッフがいない時には特に忙しくなくても「少々お待ちください」と言われてしまうタイミングがあります。具体的にどんな時かというと、

 ○他のお客様のオーダーをとっている時。
さすがに、オーダーをとる「会話」に割り込んでくる例はほぼないですが、それが途切れた間に声をかけてしまう方は散見されます。たとえば、バーテンダーの「ウイスキーでしたら、どういった系統のものがお好きですか?」という質問に対してお客様が「うーんと…」と、少し会話が止まってしまった時に「すいませーん」などとやってしまうパターンや、お客様の曖昧なオーダーに対してバーテンダーがカクテルを考えたりバックバーを向いてウイスキーを選んだりしている時などに声をかけてしまうということです。

○他のお客様に飲食物を提供している時。

 こちらも、完全に他のお客様の方をむいて、そこに集中しているタイミングです。特にショートカクテルなどはこぼれやすいので提供に気をつかっている場合も多いです。そのような状況では、すぐに対応してくれることはないでしょう。

○他のお客様のお会計をしている時

 これも同様です。時間帯によっては終電などの都合で急いでいる時もあります。そしてお金の計算をしているわけですから途中で別のことをするとミスのもとにもなります。

というように、すべて最初に「他のお客様の」がつきました。つまり、「すごい常連様」はその時は自分ではなく他の人のターンだということを認識しているということです。そしてバーテンダーがフリーになったところを見計らって声をかけています。
  

新規客、ファーストオーダー優先

 すごい常連様は、バーテンダーが、そしてお店全体が何を優先しているかを知っています。すなわち、新規のお客様と、新規の方に限らず来店して初めてのオーダー、すなわちファーストオーダーを優先して伺います。もちろん新規のお客様でもカップルなどの場合にはあえて距離をとることもありますが、基本的にバーテンダーの気遣いの比重は新規のお客様に傾きます。すごい常連様はそれをわかっているので、「いいからこっちは放置しとけよ、新規のお客さんちゃんとみてろよ」と言わんばかりの雰囲気を醸し出すことがあります。

 ファーストオーダーに関しては、バーに限らずすべての飲食店で最優先されると言ってよいでしょう。だから、すごい常連様は、もし自分が注文しようかなと思った時でも、入店直後のお客様がいたなら、そのオーダーが提供し終わるまで自分の注文は控えることがあります。さらに上級者になると、複数人のお客様、特にメニューをみてオーダーを決めるタイプのお客様だとオーダーにそれなりの時間がかかる場合があるので、入店→着席→オーダーまでの一瞬の隙間を狙って手のかからないドリンクを頼むこともあります。ウイスキーのストレート、ロック、ソーダ割や水割り、ジントニックなどが多いでしょうか。店全体の流れを把握しているからこそ可能なことです。

おわりに

さて、「バーのすごい常連様」、いかがでしょうか。だいぶしつこいかもしれませんが、必ずしもこうでなければならないということでは決してありません。いつも通りで大丈夫です。そのいつも通りがまずいようであればバーテンダーさんから指摘が入ることもあるかと思いますが、そうでないのなら安心してください。ただ、あなたの隣に座った方は、もしかしたら「すごい常連様」かもしれません。バーではスマホの画面をみるのもいいですが、たまには他のお客様の振る舞いを、見るともなしに見てみるというのも面白いかと思います。

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