バーとお酒の入門講座

バー初心者の方を対象に、バーならではのマナーや楽しみ方、お酒に関する基本や雑学、豆知識を書いていきたいと思います。バーに興味はあるけれど、何だか最初の一歩が踏み出せない、そういう方の一助になれば幸いです。

お酒の起源

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 さて今回は、「お酒の起源」についてのお話です。

 

お酒って一体なんでしょうか。

一般にはアルコールを含んだ飲み物ということですが、特に日本においては1%以上のアルコールを含んだ飲み物というように定義されています。

では、人間はいつからお酒を飲むようになったのでしょうか。そしてお酒はどこからやってきたのか。今回はその起源と、人類とお酒の出会い、馴れ初めを探ってみようと思います。

 

 お酒と人類の出会い

 私たち人類の祖先がチンパンジーやボノボの祖先といった他の霊長類と別れたのは600万年〜700万年前ともいわれますが、お酒の起源はそれよりもはるか以前、2000万年前。木から落ちた葡萄などの果実が周囲の微生物により発酵を促され、アルコールを生じた液体になっていたもの・・・つまり自然発生的にできた原始的なワインのようなもの。これがお酒の起源とされています。人類史上最古のお酒は、ワインということになります。

 

人類がそれを発見し、偶然口にしたことが人類とお酒の出会い。

 

一見腐った葡萄なので、なかなか口にはしないような気もしますが、これには理由があります。当時の人類は主に木の上で生活をし、その木に生る実が食糧でした。しかし気候の変動により地球が乾燥化、森の木々が次々に消滅してしまい、致し方なく地上に落ちた実を食べるしかなかったのです。飢えを凌ぐためには、多少状態が悪そうなものも口に入れねばならないこともあったのでしょう。

 そうして、栄養源としてこの古代ワインを飲むようになりました。

原始時代に酔っ払ったら生き残れる??

さて・・・この古代ワイン。地面に落ちた葡萄などが発酵したものということで、当然アルコールを含んでいます。ということは酔っ払うわけです。どれだけ大量に摂取できたかはわかりませんが、現代の人類がそうであるように、飲み始めると気分がよくなって飲むのがやめられなくなったり、もしかしたら泥酔することもあったりしたかもしれません。そもそもアルコールを好んで摂取する生物なんて他にもいたのでしょうか。

 

インターネットで検索すれば、そうとは知らずに発酵した果実を口にしてしまって酔っ払った動物たちの動画を見ることができます。千鳥足でよろけたり、うまく手足を使えなかったり。現代でこそ可愛いという見方もできますが、これはかなり深刻な事態です。

 酔っ払う。現代の私たちにはそこまでではないですが、外敵が多く厳しい環境にあった原始時代においてはフラフラと無防備な状態になることは死に直結し得る非常に危険なことだと推察されます。飢えを凌ぐためとは言え、当時の環境としてはこれを飲んだら死ぬ、というくらいのものですよね。そんなものを、人類はどうして飲み続けることができたのか。


 答えは、人類の進化の途上に起こった突然変異とされています。ある時、発酵した果実や果汁を口にしても、あまり酔っ払わない人たちが現れた。つまり、強力なアルコール分解遺伝子をもつ個体が出現したということです。そしてこの人たちが、私たちの祖先と言うことになります。それもそのはず、発酵した果実を食べても酔っ払わずにすむ個体の方が食料に困らず、また危険な目に遭うことも少ないので、それらが生き延びるのは自然なことと言えます。アルコールに強い方が生き残る。飲兵衛の皆様には勇気づけられる事実かもしれませんね笑

 日本人がなぜアルコールに弱いか

なお、余談ですが、一般に外国人と比べて日本人はお酒に弱い、ということを聞いたことはないでしょうか。そして実際の感覚でもそのように思う方は多いのではないでしょうか。

 この理由については、有力な仮説があるようで。

 お酒に含まれるアルコールを肝臓が分解する際にアセトアルデヒドという有害物質が生成されます。顔が赤くなったり、二日酔いの原因になったりする、悪名高いアレです。
 アルコール分解遺伝子の強い個体は、同時にアセトアルデヒド分解遺伝子も強いとされ、大量にお酒を飲んだ際の害が少ないと言われています。日本人を含む東アジア人は、この働きが弱い。それは、なぜか。

 

 一説によると、約6000年前の中国。人々は稲作のできる水辺に集まって暮らしていました。しかし当時の話なので、衛生環境は現代とは比べようもなく悪く、稲に病原菌が付着することも多かったそうです。そしてそれを食べれば病気になり、命にも関わる事態となる。そんな時に有効だったのが、当時からコメを原料に作られていたお酒。なんと、人体に有害であるアセトアルデヒドは、人体のみならずこの病原菌を攻撃する作用もあるのです。すなわち、お酒に強すぎるとアセトアルデヒドを分解してしまい、かえって体内に病原菌を繁殖させてしまうことになるということです。したがって我々のような稲作文化の祖先で生き残ったのは程々にアセトアルデヒドを「分解できない」、つまり比較的お酒に弱めの人間だったということです。お酒に強いことで酔っ払わずに生き残れる。しかし強すぎれば病原菌にやられる。なんとも皮肉としか言えない状況を、絶妙なバランス感覚で生き残ってきた遺伝子を我々は受け継いでいるということになります。

 お酒を意図的に作り出したのはいつ頃か

 さて、このお話の中で、「コメから作られたお酒」が登場したわけですが、自然発生的にではなく、意図的に人の手によってお酒が作られるようになったのは、いつ頃からだったのでしょうか。

 紀元前4000〜5000年の古代オリエント最古の文学作品「ギルガメシュ叙事詩」第11の石板に赤ワイン、白ワインともに作っていたとの記述があり、これが文献に証拠として残っている最古の記録とされています。一方中国においても近年、文献ではありませんが紀元前7000年に酒をつくっていた痕跡とみられる容器が出土しています。また紀元前3000年頃のシュメール人の粘土板「モニュマン・ブルー」にはエンメル小麦という野生の小麦によりビールが作られていたとの記録があります。

 

 紀元前1万年前後までは狩猟・採集の暮らしをしていたため、移動が頻繁に伴い、最低限の食料の確保で精一杯だったと思われます。やがて新石器時代になり、農耕とその土地への定住が広まり、時間的・経済的な余裕が生まれたためお酒を意図的に生産するようになったと思われます。そして、それが文献に残されるようになったのが約6000年前、ということなのでしょう。

 お酒、世界へ

そうしてメソポタミア文明や中国・黄河文明で生まれたお酒は徐々に世界に伝播していきます。

やがてそれらはその土地に根付き、その土地で生まれた王朝、文化、宗教と密接に絡み合い、それぞれに発展していくことになります。特にキリスト教と密接な関わりを持ったワインと、メソポタミア世界で錬金術の一環としての蒸留技術発達に伴って生まれた蒸留酒が、世界史上のお酒の二大勢力と言って良いでしょう。

 

そうしてお酒は儀式や会食、薬、そして親睦のため、世界中の至る所、あらゆる階層に飲まれ、時には歴史の証人になったりもしながら、現代まで人間の社会に親しまれています。